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広島地方裁判所 昭和33年(ヨ)339号 決定 1958年12月26日

申請人 日本電気産業労働組合

被申請人 中国電力株式会社

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一申請の趣旨

一  申請人組合中国地方本部と被申請人との間に昭和三十一年五月十六日締結された労働協約中「3基準外労働賃金」の項で「(2)定率制のものの率は現行どおり」と規定された部分は昭和三十三年九月一日以降も引続き有効であることを仮に定める。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求める。

第二当裁判所の判断の要旨

一  申請人組合(以下電産という)と被申請人会社(以下会社という)との間に昭和二十八年四月二十一日労働協約が締結されその協約において時間外手当の賃率につき別紙第一表記載のとおり規定(以下旧賃率という)されたことは当事者間に争なく、疎明によれば、昭和三十一年四月十七日会社と電産中国地方本部(以下地本という)との間に「1基準外の賃率低下に関する問題については、会社と組合で協議決定するまでは会社はこれを実施しない。2この問題については別途に協議決定する。」旨の確認書を取りかわしたこと、同年五月十六日会社と地本との間に昭和三十一年度の昇給について「3基準外労働賃金(1)定額制のものは現行どおりとする。(2)定率制のものの率は現行どおりとし、算出の基礎賃金は一項及び二項による新基礎賃金とする。」旨の協定を含む協定書が取りかわされたことが認められる。そして会社が昭和三十三年八月二十八日地本に対し、同年九月一日以降時間外手当の賃率を別紙第二表記載のとおり変更(以下新賃率という)する旨通告したことは当事者間に争がない。

二  疎明によれば、昭和三十三年八月二十八日会社と会社の従業員を以て組織する中国電力労働組合(以下中電労という)との間に新賃率を内容とする協約が成立したこと、同月二十九日現在において地本に属する組合員は二一八二名、中電労に属する組合員は九七六〇名であつたこと、会社の地本に対する時間外手当の賃率変更に関する前記通告は、労働組合法第十七条により会社と中電労との間に締結された新賃率を内容とする前記協約が一般的拘束力として地本に属する労働者に拡張適用されるものとする見解の下になされたものであることが認められる。前記法条の解釈上労働協約の拡張適用を受ける側の労働者が協約を締結した組合(たとえば第一組合)とは別に労働組合(たとえば第二組合)を組織している場合にも、その数が四分の一以下であれば、第一組合の労働協約の効力が及ぶか、さらに第二組合も別にすでに労働協約を締結しているときはどうなるか、という問題については学説の分れるところであつて、会社は積極説を、電産は消極説を堅持して譲らない。そして会社の企業全体に常時使用される同種の労働者についての電産と中電労との両組合の勢力関係については前記認定のとおりであるが、会社の企業内の各工場事業場毎の両組合の勢力関係については疎明が十分でないので、仮に協約の拡張適用に関する会社の見解を採用するとしても、会社の各工場事業場毎について会社と中電労との間に締結された新賃率を内容とする前記協約が拡張適用されるべきものであるかどうかは判然としない。しかしながら、仮に協約の拡張適用に関する電産の見解を採用し会社と中電労との間に締結された右協約によつては会社と電産との間に既に締結された旧賃率を内容とする協約の消長に何等影響がないとしても、疎明によれば昭和三十三年六、七、八の三ケ月間における地本所属組合員二二一一名の時間外の勤務時間の実績に新賃率を適用すると、時間外賃率と基本給とが不可分の関係にあるかどうかの問題は暫く措くとして、現実の収入増となるものは一、七六二名、収入減となるものは四四八名で収入減となるもののうち二六三名は月平均五〇円以下の収入減であり月平均八〇〇円を超えて収入減となるものは皆無であつて全員の収入金額を合計すると三ケ月間で二一七一三七円の収入増となることが認められるので新賃率の適用実施によつて電産若はその所属組合員に著しい損害が生ずるとは認め難い。又会社が地本に対し新賃率の適用を通告して実施した昭和三十三年九月一日から同月末日までの間において地本に属する組合員が約四〇名減少したことは会社の認めるところであるが、疎明によればかつては一二〇〇〇名の組合員をようした地本が昭和二十八年十二月組合分裂により中電労が結成された後は逐年組合員の減少を来し最近もなお漸次減少の傾向にあることが認められるのであつて、前記組合員の減少が新賃率の適用実施の結果電産主張のように組合員が電産若は地本の団体交渉能力に疑惑を抱き組合の団結に動揺を来たしたことに直接起因するものとは考えられない。

三  結論

よつて、本件仮処分申請は仮処分の必要性の疎明がないからその余の点について判断するまでもなく失当としてこれを却下することとし、申請費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 宮田信夫 長谷川茂治 土井博子)

(別紙)

第一表

昭和二八年一月以降四二時間制実施以後の基準外労働賃金の賃率は左の通りとする。

1 時間外手当

(1) 通常、時差及び三交替勤務

所定勤務時間超過実労働八時間に至るまでの一時間につき

一、〇〇〇分の七、〇

超過の一時間につき

一、〇〇〇分の七、五

(時間内賃率一時間につき

一、〇〇〇分の五、八)

休日出勤

一時間につき

一、〇〇〇分の七、五

代休をとつた場合、所定勤務時間数に対する割増賃金

一時間につき

一、〇〇〇分の一、七

(2) 特殊勤務

休日出勤

一時間につき

一、〇〇〇分の七、五

但し全一日勤務したとき

一日につき

一、〇〇〇分の六〇、〇

代休をとつたとき

一日につき

一、〇〇〇分の一三、六

第二表

(1) 通常、時差ならびに三交替勤務者

所定勤務時間を超えて勤務したときまたは休日に勤務したとき

一時間につき

基礎賃金の

一、〇〇〇分の七、二

代休を与えたとき又は休日の変更を行つたとき

一時間につき

基礎賃金の

一、〇〇〇分の一、四

(2) 特殊勤務者(月額制の手当をのぞく)

休日に勤務したとき

一時間につき

基礎賃金の

一、〇〇〇分の七、二

全一日休日に勤務したとき

一日につき

基礎賃金の

一、〇〇〇分の五七、六

代休を与えたときまたは休日の変更を行つたとき

一日につき

基礎賃金の

一、〇〇〇分の一一、二

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